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Chapter 170

やっぱり宮城はヘンタイだ。


当たり前のように目隠ししてくるなんておかしいし、気持ちがいいかどうか聞くだけでは飽き足らず、どれくらい気持ちがいいか具体的に説明させようとしてくるなんてどうかしている。終わった後にまじまじと指を見ていたのもあり得ないし、どう考えても宮城はヘンタイ以外の何者でもない。


寝転がったベッドの上、大きく息を吐く。


ブラのホックもデニムのボタンも外れたままで、酷くだらしがない格好だと思う。でも、宮城はもういないし、誰かに見られているわけでもないから身なりを整えようとは思えない。


「……言わなきゃ良かった」


何度もしつこく聞かれたから口を滑らせてしまった。


どれくらい気持ちがいいかなんて問いに真面目に答える必要なんてなかったはずだ。一人でするよりも気持ちが良かったことは間違いのないことだけれど、それをわざわざ宮城に伝えるなんて私は馬鹿だと思う。余裕がなかったとはいえ、どうかしていた。


宮城がどう思ったのか気になるけれど、さすがにそれを聞こうとは思えない。聞くためには自分が口にしたことをもう一度言わなければいけないし、変に聞いて追求されても困る。するときになにを考えているのとか、どういう風にするのとか宮城なら聞いてきそうだ。


そんなことを答えるのは恥ずかしいし、宮城に言えるようなことでもない。でも、聞かれたら答えてしまうだろうと思う。


私は宮城に甘い。


宮城もそのことに気がついているとは思うが、私はきっと彼女が考えている以上に彼女に甘くて、今日だって「断ったらああいうこともう絶対にさせないから」なんて言葉がなくても断らなかった。宮城がまた私にされてもいいと言わなくても、宮城がしたいと言えば許すくらい彼女のことが好きだし、彼女が私に触れたいと思ったことを嬉しく感じた。


「まあ、それはいいとしても」


なにがどうなって、あんなことを言いだすことになったのかが、さっぱりわからない。


宮城の方から私に触れたいと言ってくることなんて一生ないと思い込んでいたから、本当にわからない。あのとき宮城は「仙台さんがどうなるか知りたいだけ」と言っていたけれど、あの場面で突然そんなことを思ったりするわけがない。なにか理由があったはずだが、無理矢理聞き出そうとしたら、宮城は私に触れることなく自分の部屋に戻っていただろう。明日聞いたとしても答えてくれるとは思えない。


それでも私は、宮城がどうしてああいう行動に至ったのかを知りたい。もっと言えば、理由の奥深くにあるであろうもの――宮城が私をどう思っているかを知りたいと思っている。


宇都宮が遊びに来たときに、宮城は好きな人はいないと言っていたが、今日の宮城を見たら、もしかしたら、と考えずにはいられない。


一回だけなら気の迷いだとか、勢いだとか、好奇心だとか言い逃れることもできるだろうと思うけれど、私たちがこういうことをするのは二回目で、しかも今日は宮城の方からしたいと言ってきた。

初めてのときのように私が押し切ったわけではない。


宮城が、自分の意思で、そう言った。


そこから何らかの答えを導き出すならば、可能性を考えて、考えて、考えるならば、行き着くところは宮城も私を好きだということになる。けれど私は、それをすんなり受け入れられるほど楽天的ではなく、辿り着いた答えに疑問符をつけたくて仕方がない。


はあ、と深く息を吐く。

ごろりと寝返りを打って、壁に手をつける。

体を丸めて、目を閉じる。


ついさっきまで背中にあったもの。

宮城の柔らかな感触。

熱があるのかと思うくらいの体温。

私の体を撫でる手。

なにもかもが気持ちが良かった。


上手いとか下手とかそういうことはどうでもいい話で、宮城だから理性を留めていたネジがすぐに溶けて消えて、ただひたすら気持ちが良かった。


彼女が私に与えてくれたものは、宮城も私を好きなのかもしれないと思わせるものだったけれど、こうして一人でベッドの上にいると自信がなくなる。


笑ってくれたら、と思う。そして、葉月と呼んでくれたら、自信が持てそうな気がする。


そもそも宮城が私を好きだなんて、抑えがたい欲求に流された私の思い違いでしかないかもしれないけれど。


「駄目だ。このままじゃ落ち込む」


宮城は私を好きだと思う私と、宮城は私を好きじゃないと思う私の戦いは後者の方が優勢で、ずっと考えていると結論が良くない場所に着地することになりそうだ。


どうせ考えるなら、いいことを考えた方がいい。

私は瞼に感じる光を追い出すように、閉じた目をもっとぎゅっと閉じる。


今日、宮城から普段とは違う濡れた声で「仙台さん」と呼ばれた。私からしたときに宮城が発した声の方が扇情的ではあったけれど、今日聞いた声は呼びたくて私を呼んでいるように聞こえて、耳が二つだけでは足りないと思った。


葉月とは呼んでくれなかったが、志緒理と呼んでも怒られなかった。……もしかしたら怒ったのかもしれないけれど、よく覚えていない。


記憶ははっきりしているようで、ところどころぼやけている部分がある。でも、噛みつかれたことはよく覚えている。私からしたときにも噛みつかれたけれど、今日も強く首筋に歯を立てられて、それはすごく痛かったのにものすごく気持ちが良かった。


考えるなら、こういう私にとって良かったことを考えている方が幸せになれる。でも、熱が引いた体がまた熱くなりそうで目を開けると、部屋を白く照らす明かりが痛いくらいに入ってきた。


私はのろのろと体を起こす。

お風呂に入らなきゃ、と思う。

体の一部が酷く気持ちが悪い。

けれど、宮城が私に触れた証を拭い取って、洗い流す気にはなれない。また宮城に触れてほしいし、また宮城に触れたいと強く思う。


私はもっと宮城の深い部分を知りたくて、もっと私の深い部分を宮城に知ってほしい。

今すぐにでも。


「無理だってわかってるけどさ」


私は壁を背もたれにして寄りかかる。

次にいつこういうことがあるのかわからない。

宮城が明日いるのかさえわからない。

この前は、起きたときには宮城がいなかった。


「……さすがにないよね?」


家出をするなら恥ずかしいことまで言わされた私の方だと思うけれど、私は家出をするつもりはないし、恥ずかしくても明日も宮城に会いたい。


でも、宮城はどうなんだろう。


今回は家出をする要素がないはずだが、宮城は突拍子もないことをするから朝起きたらもういなかったなんてことがあってもおかしくない。


いなくなることはないと思うけれど、いなくならないでほしいと思う。

朝は宮城におはようと言いたいし、一緒にご飯を食べたい。


だから、早起きをしようと思う。

宮城が逃げだそうと思っているのなら、逃げ出す前に捕まえたい。


そう決めても、祈らずにはいられない。


どうか明日の朝、いつものように宮城がいてくれますように。


Translation Sources

Original