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Chapter 235

お弁当を買うかどうか。

コンビニへ入ってすぐに仙台さんと揉める。


今から家へ帰ってご飯を作るのは面倒だと思う私と、食材はもう買ってあるし、大晦日なんだからちゃんとしたものを食べたいという仙台さんの意見は平行線をたどり、最終的にはじゃんけんで勝った仙台さんの意見に従うことになった。


「面倒くさい。適当に食べてだらだらした方がいいと思うけど」


仙台さんに文句を言うと、シュークリームを二つカゴに入れた彼女が「今年最後の日なんだからちゃんとしたもの食べようよ」と今日を意味のある日にしようとする。


「十二月三十一日なんて来年もあるじゃん」


私はプリンを二つカゴに放り込む。


「宮城、来年の今日も私と一緒に過ごしてくれるんだ?」

「どうせ、私はすることないし」

「もしかしてさっきの根に持ってる?」

「別に」


初日の出を見ると言う仙台さんに「眠くなりそうだからやだ」と答えたら、「することないんでしょ?」と言われたことは気にしていたりしない。舞香もいないし、私にすることがないのは事実だ。でも、することがあったとしても、仙台さんが来年の大晦日も今日のように過ごしたいというなら、一緒に過ごしてもいいと思っている。


カレンダーを彼女との予定で埋めれば、一人で過ごすつまらない時間がなくなるし、強く拒絶するようなものではない。


「仙台さん、これも」


私はカゴにチョコレートを追加する。


「他にほしいものある?」

「ラムネ。仙台さんは?」

「ポテトチップス」


私たちは特別感のないおやつをカゴに放り込み、お金を払ってコンビニを出る。ぽつりぽつりと話をしながら家へ帰り、水炊きを作る。


「宮城、土鍋出して」


仙台さんの声に、チーズケーキを食べたはずのお腹がぐうっと返事をして笑われる。私は冷蔵庫を覗いている彼女の足を蹴って、土鍋を用意する。仙台さんが食材を切って、小さな土鍋にスープを作り、鶏肉を入れる。アクを取りながら鶏肉に火を通し、切った野菜ときのこ、さらに豆腐を入れて煮て、仙台さんの部屋へ鍋とご飯を持っていく。


「なんで共用スペースで食べないの? 片付けるの面倒じゃん」


三毛猫と黒猫の箸置きに箸を置いている仙台さんに尋ねる。


「大晦日だし、いつもと違ったことした方が特別な感じがするから」

「普通でいいと思うけど」

「普通でもいいけど、普通じゃなくてもいいでしょ。食べようよ」


そう言うと、仙台さんがベッドを背にして腰を下ろし、私は彼女の向かい側に座る。そして、どちらからともなく「いただきます」と口にして箸を持つ。


私はポン酢を入れた器に白菜と鶏肉を取って、じっと見る。


最後に鍋をしたのはいつだろう。


記憶を辿っても思い出せない。


「水炊きじゃない方が良かった?」


仙台さんの声が聞こえて、顔を上げる。

彼女と暮らすまで、食事はレトルトや冷凍食品、お弁当ばかりで自分で作ることはほとんどなかったから、鍋を食べた記憶なんて簡単に見つかるはずがない。


「鍋ってほとんどしたことないし、なんでもいい」


私は記憶から導き出した答えを小さく告げ、鶏肉を囓ってよく噛んで飲み込む。

鍋なんて一人で食べてもつまらないから、過去の私が料理を作る人間だったとしても作らなかっただろうと思う。


「そっか。美味しい?」


鍋をしない理由を聞かずにいてくれる彼女に「美味しい」と答えると、笑顔が返ってくる。


仙台さんは相変わらず優しい。

でも、無条件に与えられる彼女の優しさに返すものが見つからなくて、少し居心地が悪くなる。


黒猫の箸置きに視線を落とし、白菜と鶏肉を食べる。

器に水菜と豆腐を取って、ベッドに寝かされているペンギンのぬいぐるみを見る。

それはクリスマスに私がクレーンゲームで取ったもので、日によって違う場所に置かれている。


床に転がっていたり、ベッドの上に座っていたり。


今日は、仙台さんの代わりに布団に入って眠っている。

大事にされているのかいないのかよくわからない。


「仙台さん、ペンギンのぬいぐるみほしいって言ってたけど、それ気に入ったの?」


私は仙台さんの誕生日を思い出す。

誰でもするような普通の話をしたいと言った彼女は、ペンギンを好きになったと言っていたし、ぬいぐるみを買ってくれば良かったと言っていた。ただ、それがクレーンゲームで取ったぬいぐるみでも良かったのかはわからない。


「気に入ったよ。抱き枕代わりにしてる」

「そんなにペンギン好きなの?」

「宮城、ペンギン好きでしょ?」


仙台さんが質問に質問を返して、熱いと言いながら豆腐を食べる。


「私の話はしてない。仙台さんがペンギン好きか聞いてる」

「好きだよ。だから一緒に寝てる」


ベッドで眠っているペンギンは手のひらに載るような小さなものではないけれど、抱いて眠りたくなるほど大きなものでもない。抱き枕にするのなら、もっと大きなものがいいと思う。


「ペンギン、抱き枕にしては小さくない?」

「じゃあ、宮城が抱き枕になってくれる?」

「なるわけないじゃん」


くだらないことを言う仙台さんを睨んで、鍋から鶏肉を取る。仙台さんも鶏肉を取って、ポン酢をつける。


私たちはどうでもいいことを話しながら鍋の中身を減らしていくけれど、食事のペースはいつもよりもゆっくりで、なかなかなくならない。くだらない話は盛り上がっているのかいないのかわからないけれど、のんびり食べる鍋は美味しくて、コンビニでお弁当を買ってこなくて良かったと思う。


「宮城。プリンとシュークリームどっち食べる?」


鍋がスープだけになった頃、向かい側から明るい声が聞こえてくる。


「仙台さん、決めていいよ」

「宮城はどっちが好き?」

「じゃあ、プリン」


こういうとき、仙台さんが自分の好きな方を選ぶことはほとんどない。私に好きなものを選ばせてくれる。それは嬉しくもあるけれど、彼女が自分の気持ちを覆い隠しているようにも見える。


プリンとシュークリーム。


どちらから食べるかなんてたいしたことじゃない。でも、誰でもするような普通の話をしたいと思っているのなら、たまには自分の意見を言うべきだ。どうでもいいようなことだけれど、教えてくれないことが多いとそれは不満になる。


「取ってくるから待ってて」


プリンとシュークリームのどちらが本当に食べたいものか教えてくれない仙台さんが立ち上がる。部屋を出ていき、すぐに戻ってくると、プリンとスプーンをテーブルの上に置く。


「仙台さんの食べたいのって、プリンだった?」

「うん」


コンビニでシュークリームをカゴに入れた仙台さんがにこりと笑って、プリンの蓋をペリペリと剥ぐ。追求することを諦め、私も蓋を剥がしてプリンを一口食べる。


柔らかくて、冷たくて、美味しい。


もう一口食べると、仙台さんが「こっち来なよ」と自分の隣をトントンと叩いた。


「なんで?」

「近くで食べた方が美味しいから」

「プリンなんてどこで食べても変わらないじゃん」

「そう? 美味しくなるから試してみなよ」


仙台さんがにこりと笑ってプリンを食べる。

彼女に従う理由はない。


場所でプリンの味が変わるなんて聞いたことがないし、適当なことを言っているだけだ。隣に座らせて変なことをしようとか、人のプリンまで食べようとか、そういうことを考えているに違いない。だから、隣になんて座らなくてもいいのだけれど、今日は仙台さんのおかげで美味しいご飯を食べることができたから、騙されてあげてもいい。


「一応、試す」


私は彼女の隣に座ってプリンを一口食べる。

当然、味は変わらない。


「美味しい?」

「美味しいけど、さっきと同じ」

「そっか。私の一口食べる?」


仙台さんがスプーンでプリンをすくおうとするから、私は彼女の腕を押して「食べない」と宣言する。


「美味しいのに」


隣から独り言のような呟きが聞こえてくるけれど、彼女は私と同じプリンを食べているから一口食べるも二口食べるもない。どれだけ食べても同じ味だ。


「じゃあ、今年最後の宮城を撮ってもいい?」


仙台さんがプリンをテーブルに置いてスマホを取り、私に向ける。


「絶対にやだ」

「宮城のケチ」

「ケチでいい」

「じゃあ、宮城のプリン一口ちょうだい」

「同じ味だし、自分の食べれば」

「そうする」


仙台さんがあっさりと諦めて、テーブルの上に置いたプリンを手に取る。そして、一口、二口とスプーンですくって食べていく。


「ねえ、宮城」


仙台さんが静かに言って、三分の二がなくなったプリンに視線を落とす。


「なに?」

「澪にも先輩にも志緒理って呼ばせないでよ」

「呼ばせるつもりない」

「呼ばせたら、私も志緒理って呼ぶから」


耳元で囁かれて、思わず仙台さんの肩を押す。


「宮城、危ない。プリン落とすかと思った」


彼女の声は気持ちが良い。

思い出さなくていいことを思い出してしまう。


「仙台さんが急に近寄ってくるからじゃん。プリン食べにくいから、離れてて」


私は誤魔化すようにプリンをすくって、スプーンを口に運んだ。


Translation Sources

Original